研究成果を英語で発表する際は、専門外の記者や読者にも、何が分かり、その結果にどのような意味があるかを伝える必要があります。論文の要約をそのまま載せるだけでは、研究の背景や意義が十分に伝わらないこともあります。私は、論文が示した結果と、そこから説明できる範囲を確認し、読者が背景から発見まで理解できる順序で科学プレスリリースを作成しています。
私は米国出身のライター・編集者で、大阪を拠点にMacroLingoを運営しています。これまで、日本の大学や研究機関向けに、英語の科学プレスリリースを執筆してきました。この記事では、執筆時に重視していること、資料の確認から原稿完成までの流れ、依頼先を選ぶ際に確認したい点をご紹介します。
目次
私が科学プレスリリースで確認すること
科学プレスリリースを読んだ記者が、研究の内容を理解し、必要に応じて論文を参照したり研究者に質問したりできるようにします。私は、専門外の読者にも伝わる説明になっているか、研究の意味が変わっていないかを、主に次の点から確認しています。
- 見出しで、研究の発見を具体的に伝えているか。論文が示す範囲を超えた表現になっていないか。
- 冒頭で、研究が扱う問題と今回の結果が分かるか。背景説明が長すぎて、発見が埋もれていないか。
- 既存の研究と比べて何が新しいのか、読者が判断できる説明があるか。
- 方法と研究の限界が分かるか。対象者数や実験条件など、結果の解釈に必要な情報が残っているか。
- 論文名、掲載誌、DOIなどの参照情報が正しいか。
- 研究者のコメントが自然な英語になっているか。引用する文言について本人の確認を得ているか。
- 画像の説明、クレジット、使用許諾、問い合わせ先がそろっているか。
例えば、培養細胞で得られた結果を、人に対する治療効果のように説明すると、研究の範囲を超えてしまいます。読みやすく書き換える際も、対象と実験条件を論文で確認し、結果から説明できる範囲を保つようにしています。
学術研究と企業ニュースでは、伝える内容が変わります
私が執筆する原稿には、学術研究の発表と、企業の科学・技術ニュースがあります。いずれも根拠の確認が欠かせませんが、想定読者や発表の目的が異なるため、説明する内容と構成を分けて考えています。主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 学術研究の発表 | 企業ニュースの発表 |
|---|---|---|
| 中心となる情報 | 研究で得られた結果と、その意味 | 製品・サービスの変更や事業上の動き |
| 想定する読者 | 科学記者、研究者、政策担当者、研究に関心のある一般読者 | 顧客、投資家、業界メディア |
| 主張の裏付け | 論文の結果、実験条件、先行研究 | 製品仕様、利用実績、事業に関する確認可能な情報 |
| 説明すべき範囲 | 研究の限界と、今後検証が必要な点 | 提供条件や、適用される市場・用途 |
| 研究者・担当者のコメント | 結果の解釈や、次に調べたいこと | 事業の狙いや、顧客への影響 |
| 配信先の例 | 大学の広報サイト、EurekAlert!など | 企業サイト、PR配信サービス、業界メディア |
企業向けの科学・技術PRでは、Ellerton & Co.とも協力しています。同社の科学・研究技術のPRサービスは、研究支援ソフトウェアや技術サービスを提供する企業を対象としています。大学の個々の論文発表とは目的や読者が異なるため、ご相談の際に、何を誰に伝えたいかを伺い、必要な支援を検討します。
私の研究・編集の背景
私は心理学、公衆衛生、ビジネスを学び、査読付きの学術論文の執筆にも携わってきました。また、Board of Editors in the Life Sciences(BELS)の科学編集資格であるELS認定を取得しています。
研究や編集の経験は、論文の主張を読み取り、著者に何を確認すべきかを判断する際に役立っています。ただし、私だけですべての分野を判断できるわけではありません。専門用語や結果の解釈に疑問があれば、著者に確認します。ご依頼を検討する際は、資格とともに、公開された原稿や、著者への確認方法も見ていただければと思います。
私の経歴と、MacroLingoの所在地などは、会社概要に掲載しています。
日本語の資料から、英語の読者に届く原稿を作ります
私は日本語の広報原稿や研究者のコメントを読み、意図を確認しながら英語原稿を作成します。ご相談や原稿についてのやり取りも、日本語で対応しています。説明が省略されている箇所や、英語では別の意味に取られそうな表現は、著者に確認してから書き換えます。
日本語の広報原稿がある場合は、内容を確かめたうえで、英語の読者に必要な背景を補い、段落の順序を調整します。例えば、日本では知られている制度や地域の事情も、海外の読者には説明が必要な場合があります。このような翻訳・ローカライズもMacroLingoで承っています。
研究紹介ページをウェブで公開する場合は、本文と見出しの内容が一致しているか、用語の表記が統一されているか、出典へのリンクがあるかも確認します。MacroLingoでは英語AI-SEOにも対応し、検索で研究内容を見つけてもらうためのサイト構成と原稿を見直しています。公開情報を読み取りやすくするための支援であり、検索順位やメディア掲載を確約するものではありません。
依頼先は、原稿と担当者の仕事で判断してください
科学広報を得意とする書き手は、翻訳会社にもフリーランスにもいます。そのため、所属先や肩書だけでなく、依頼内容に近い執筆例と、実際に担当する人を確認することをお勧めします。私へのご依頼でも、過去の原稿や作業の進め方を見て、研究分野やご希望に合うかをご判断いただけます。
| 確認する点 | 依頼前に確かめたいこと |
|---|---|
| 執筆・編集の範囲 | 日本語原稿の翻訳か、論文からの新規執筆か。構成の見直しを含むか。 |
| 担当者の経験 | 自分の研究に近い分野の原稿例があるか。何を確認し、どう書いたかを説明できるか。 |
| 研究者との連絡 | 日本語で質問を受けられるか。専門的な判断が必要なとき、誰に確認するか。 |
| 修正と承認 | 修正回数、納期、追加料金の条件が明確か。著者が最終確認できるか。 |
| 公開前の管理 | 未公開原稿の取り扱いと、報道解禁日時の確認方法が決まっているか。 |
| 納品物 | 本文以外に、見出し、要約、画像説明などをどこまで用意するか。 |
MacroLingoへのご依頼でも、作業範囲と確認の手順を先に相談します。既存の英語原稿の編集で対応できる場合もあれば、論文を読み直して構成から作るほうが適している場合もあります。
私が英語プレスリリースを作成する手順
大学や研究機関からご依頼いただく際は、通常、次の順序で進めます。
- 論文と広報資料を読み、今回の研究で何が分かったかを把握します。そのうえで、広報担当者や著者と、想定読者、公開予定日、報道解禁日時を確認します。
- 研究の背景、結果、限界を説明する英語の初稿を作ります。日本語の原稿やコメントがある場合は、著者の意図を確かめるために参照します。
- 冒頭で研究が扱う問題と結果を説明し、詳細へ進む構成にします。研究者のコメントは、本人の意図が自然な英語で伝わるように訳します。私が文案を提案した場合も、引用する前に本人の承認を得ます。
- 図や写真が説明に役立つかを検討します。私は研究データを示す図表そのものは作成しませんが、掲載する素材やキャプションについて助言できます。
- 投稿先の要件に合わせて、見出し、要約、キーワードなどを準備します。論文へのリンクや連絡先、画像のクレジットも確認します。
- 著者と広報担当者に内容を確認していただき、修正を反映します。EurekAlert!などへの投稿は、通常、機関側の担当者に行っていただきます。
医学研究では、数語の変更によって、因果関係と関連の区別や、動物実験と人を対象とした研究の違いが曖昧になることがあります。私は読みやすく書き換える際も、論文が実際に示した結果と主張の範囲を確認します。完成した原稿は、研究をよく知る著者にも最終確認をお願いしています。
日本の研究機関の英語発表も参考になります
原稿の構成を検討するときは、ほかの研究機関がどのように研究を説明しているかも参考になります。例えば、以下のページには英語の研究発表が掲載されています。
参考原稿を見る際は、見出しの長さ、冒頭で説明している内容、専門用語への補足を比較すると、構成を検討する材料になります。構成を参考にしつつ、自分の研究を初めて読む人にどの背景説明が必要かを考え、原稿に反映します。
ライターに依頼する前に聞いておきたいこと
私にご相談いただく場合も含めて、次の点を聞いておくと、作業内容をすり合わせやすくなります。
- 公開された科学プレスリリースの執筆例を見せてもらえるか。
- 専門外の読者に向けて、どの情報を冒頭に置くか。その理由を説明してもらえるか。
- 日本語の資料や著者のコメントを理解し、不明点を確認できるか。
- 英語で説明を補う箇所と、著者の判断が必要な箇所を、どのように扱うか。
- 研究結果の主張、資金提供情報、利益相反などを、何と照合するか。
- 修正依頼と著者の承認を、どの順序で進めるか。
- 未公開の論文を外部サービスやAIツールに入力する場合、事前に許可を得るか。
公開前に見直したい原稿の問題
以下の点は、ライターに依頼した原稿でも、研究室内で作った原稿でも確認しておきたいところです。
- 研究の発見が後半まで出てこず、冒頭だけでは何を発表しているか分からない。
- 日本語の語順や省略が残り、英語では意味を取りにくい。
- 専門用語が続き、読者が研究の背景を理解できない。
- 研究者のコメントが本文の繰り返しになり、本人がどう結果を捉えているか伝わらない。
- 将来の応用を、すでに実現した成果のように書いている。
- 論文へのリンク、問い合わせ先、画像の使用条件が欠けている。
表現を修正すると、見出しと本文で主張がずれることもあります。そのため私は、個々の言葉を直した後も、研究の説明が全体を通して一致しているかを読み直します。修正の理由や確認が必要な点は、著者・広報担当者と共有します。
MacroLingoへのご相談について
研究室や広報担当者の方からご相談いただく際は、公開予定の論文や、現在の広報原稿をご用意いただけると、作業範囲を検討しやすくなります。資料を拝見し、英語で新たに執筆するか、日本語原稿の翻訳や既存英文の編集で対応するかを、私からご提案します。
ご相談の際に、発表先と希望納期が分かると、必要な作業を判断しやすくなります。まずはお問い合わせから、研究分野とご希望をお聞かせください。
私が執筆に携わった研究発表の例
以下は、私が執筆に携わった英語の研究発表です。分野ごとの説明の仕方や、冒頭から結果までの流れをご覧いただけます。
- 家族の介護経験と人生の最終段階に関する話し合いを扱った研究
- 子ども型アンドロイドの表情の表現に関する研究
- 子どもの自閉症に関連する脳波のバイオマーカー候補を扱った研究
- カエルの合唱を参考にした無線センサーネットワークの研究
- 中国の経済特区の経済的便益を検討した研究